東京地方裁判所 昭和49年(ワ)4985号 判決 1975年11月20日
原告 東都自動車株式会社 外三名
被告 芙蓉交通株式会社
主文
一 原告らの請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が、昭和四九年二月一六日開催した臨時株主総会における「株式の譲渡には取締役会の承認を要する」旨の定款変更決議は無効であることを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告東都自動車株式会社は、かねて、被告の額面普通株式六〇〇〇株(一株の金額五〇〇円)、転換社債五〇万円券九枚を所有していたところ、昭和四四年三月二九日被告に対し右転換社債につき株式への転換請求をなし、現に被告の額面普通株式一万五〇〇〇株を有する株主であり、原告大野秀雄、同富田昭雄および同山田勇はいずれも被告の転換社債五〇万円券一枚を有していたところ、同日被告に対しそれぞれ右転換社債につき株式への転換請求をなし、現に被告の額面普通株式各一〇〇〇株を有する株主である。
2 被告は、昭和四九年二月一六日、その臨時株主総会を開催したが、右総会において、被告の定款中に「被告の株式を譲渡するについては、取締役会の承認を要する」旨の定めを新たに設ける定款変更決議が行われた。
3 ところが、これより先、被告は、昭和四〇年六月一日、額面総額金一五〇〇万円の転換社債を、「社債額面五〇〇円につき額面普通株式一株(一株の金額五〇〇円)に転換することができる」旨および「転換の請求をすることができる期間は昭和四一年六月一日から昭和六〇年五月三一日までとする」旨を定めたうえ発行した。
よつて、前記株主総会決議は、請求原因第3項記載の転換社債の転換請求期間経過前に行われた商法三四八条三項に違反する決議であるから、原告らは、被告に対し、右決議が無効であることを確認することを求める。
二 請求原因に対する認否
認める。
三 抗弁
被告の発行した前記転換社債額面総額金一五〇〇万円については、その全ての転換社債権者が、昭和四四年一〇月一日までに、被告に対し、自己の有する転換社債を全部株式に転換する旨請求した。
四 抗弁に対する認否
不知。
第三証拠<省略>
理由
一 請求原因事実はいずれも当事者間に争いがない。
二 そうすると、被告は、被告が発行した転換社債の転換請求期間が経過する以前に、株主総会において株式の譲渡については取締役会の承認を要する旨の定款変更決議を行つたものであり、右決議は商法三四八条三項の規定に違反した決議のようにみえる。しかしながら、右条項の規定の趣旨は、将来転換請求によつて株主となることができる転換社債権者が議決権を行使することのできない株主総会の決議によつて、右転換社債権者の、株式への転換後自由にその株式を譲渡して投下資本の回収を図り得るという利益を奪うことを禁止することにある。とすれば、転換請求期間経過前であつても、現実に全ての転換社債が株式に転換した後(ただし、商法三四一条の六の規定によつて転換の請求をした株主が議決権を有しない場合は、当該株主が議決権を有するようになつた後に限る。以下同じ。)においては、かつての転換社債権者も全て株主として株主総会に出席し議決権を行使し得るのであるから、右期間経過前であることをもつて前記株式譲渡制限の定めを設ける定款変更決議を禁止する合理性はない。したがつて、全ての転換社債が株式に転換した後においては、右のような定款変更決議につき商法三四八条三項の適用はなく、右決議をもつて右条項に違反する無効なものということはできない。
三 そこで抗弁について判断する。
乙第一号証(当事者間に成立について争いがない。)および被告代表者の供述を総合し、弁論の全趣旨を併せ考えると、被告が昭和四〇年六月一日発行した額面総額金一五〇〇万円の転換社債については、その後三回にわたつて転換社債権者からの株式への転換請求が行われ、昭和四四年九月一日までには右全額の転換が終了し、同年一〇月一日にはその旨の登記も経由しており、被告の全ての転換社債が株式に転換した後において、本件定款変更決議がされていることが認められる。
四 よつて、原告らの請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 柳川俊一 舟橋定之 中山一郎)